出光興産・宮岸基礎化学品部長に聞く~原料のグリーン化に注力-さらなる再編は必至/連携強化でサプライチェーン堅持-
- インタビュー
出光興産は、基礎化学品事業において原料のグリーン化に注力する。同社は各製油所・事業所でサステナブルな事業構造への変革を図る「CNX(カーボンニュートラル・トランスフォーメーション)センター化構想」を掲げ、その一環として廃プラのケミカルリサイクルやSAF(持続可能な航空燃料)の事業化を推進。基礎化学品を取り巻く事業環境は厳しい状況が続いているが、同社の宮岸信宏基礎化学品部長は「石化をやめるつもりは毛頭ない」との考えを示すとともに、「原油を扱う会社が化学事業もやることの価値を高めることも重要」と語り、「従来のナフサだけでなく、新しいグリーンな化学原料を供給していくことも大きな使命」と強調する。
-2024年の総括をお願いします
事業環境が大きく変化しており、それが特に顕在化したのが2024年だ。一つは中国をはじめとする新興国の大増設で、すべての需給バランスが大きく崩れ、供給過剰になっている。以前は増設~需給緩和~需要の戻り~市況の好転というサイクルの繰り返しだったが、今はこれから好転するだろうというレベルから逸脱している。増設のやり方や国の施策も含めて、今までとは違う大きな転換期を迎えていると思う。
もう一つ、カーボンニュートラル(CN)やグリーンケミカルへ向かう大きな流れが加速していると感じる。昨今では本当にCNが2050年に行われるか議論され、そのスピードや目標がトーンダウンしていることは承知しているが、世界が目指すべき大きな流れとして、基礎原料を扱う業界でのグリーン化は大きなうねりが存在し、それを感じた1年でもあった。
それから、2024年は日本国内の需要減が顕著だった。もちろん、長い目でみれば日本は人口減少で需要も漸減が避けられないが、特に合成樹脂のところで輸入品が増えつつあり、それが顕在化したのも2024年だ。
新興国での新増設とグリーン化の流れ、それから日本の激しい需要減。この辺りが2024年に顕在化した厳しい現実で、これが当面は続くのだろう。特にオレフィンは極めて悪い状態で、クラッカーの稼働率に反映されている。能力の適正化は、いよいよ待ったなしだ。当社は先行して表明したが、クラッカー停止の動きも続出している。こうした動きに対しても、さほどの驚きを持つことはなく、ようやく具体化してきたなという感覚だ。
-アロマ事業はいかがですか?
PX(パラキシレン)、ベンゼン、SM(スチレンモノマー)を中心とするアロマ事業は、石油精製会社の化学部門としての強みだ。石油精製事業と近しい領域でもあり、アロマ自体の需給バランスも重要だが、燃料油の動向にも大きく左右される。全世界的にみれば、一時期のCN化で石油の需要がなくなるという流れからは揺り戻しが起きて、それなりに堅調な数字に落ち着いている。アロマ事業は期待している分野ではあるが、需給バランスをみながら燃料油との一体運営をどう進めていくか、大きな課題だ。
-2025年の見通しは?
オレフィンは中国でまだまだクラッカーの増設が計画されているため、極めて厳しい状況が続くとみている。メインの誘導品であるPE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のほか、PS(ポリスチレン)も含めて汎用樹脂は輸入品が今年も相当量入ってくるだろう。オレフィンに関しては生産能力の適正化が加速し、誘導品の再編も不可避だ。すでに動き出しているが、さらに二の手、三の手が具体的に検討されていく1年になるのではないか。
アロマも厳しいが、例えばPXは新増設が2024年で一段落している。業界内でもPXは2024年を底に需給ギャップが改善していくとの見方が強い。ガソリンも新興国を中心に需要が伸びているので、PXは少しずつ回復していくだろう。これから米国がシェールを増産すれば重質留分が減るため、オクタン価を上げるブースターとして、アロマ基材の価値は認められるはずだ。PXやベンゼンは、劇的に良くなるとは思わないが、上向く期待感はある。
SMも似たような状況で、今後も新増設は続くが、さすがにそろそろ止まるとの見方が一般的。2025年から緩やかに上がっていくと想定している。SMはすでに日本国内で大規模な再編が行われたが、当社は東西に拠点を持ち、自社のエチレンとベンゼンを使いながら事業を行っている。SMに関しては今後も強みをキープし、東西拠点を死守したい。当社は不採算な誘導品については一通り撤退を実行しており、現時点でこれ以上の整理は考えていない。SMを中心に、残った誘導品のチェーンは維持していきたい。
-千葉でクラッカー1基化を検討中です
三井化学とのLLPで運営する2基のうち、三井化学側の1基に集約する方向で検討している。現在は両社でFEEDを行い、どうやって設備的に集約していくかの技術検討を行っている段階だ。順調に進んでおり、2025年上期中に大まかな検討・協議を終えられると思う。下期以降に最終的な意思決定を下したい。
当然ながら、残すクラッカーはフル稼働を目指す。それぞれが誘導品を持っていて、欲しい留分の量があり、そのデリバリーをどう配分するか等々の協議も行っている。
-千葉では丸善石油化学が自社設備を停止し、京葉エチレン(丸善石化55%/住友化学45%出資)への集約を決めました
千葉地区での再編の方向感が定まり、一時的にはバランスするだろうが、例えば2050年を見た時に、残る2基のクラッカーが隆々と高稼働しているかというと、それは難しいだろう。将来的な日本のエチレン需要は色々な見方があるが、ミニマムでは300万トン程度という見立てもあり、個人的にはそこまで落ちる可能性もあると思っている。そうなると京葉地区に2基のクラッカーは不要で、最終的に1基化という流れになる。決して私個人の見解ではなく、2基に集約したからといって永劫安泰とは誰も思っていないだろう。時間軸はともかくとして、さらに1基を停止し、残る1基をどう運営していくか。いずれそういった議論が避けて通れなくなると思う。
併せてグリーン化の検討もしていかなければならない。互いに過当競争をして疲弊し倒れていくのは非常に無駄で、特に日本勢同士でやりあう意味は全くない。京葉コンビナートという日本最大のコンビナートに立地する化学大手4社が、あらゆる面で連携していくということはやらなければならないことだと思っているし、そういう方向で議論が進んでいくのは必然だろう。
-徳山の強化策は?
徳山は電解の一大コンビナートという形になっており、当社の自社誘導品というよりも、弊社のクラッカーから東ソー、トクヤマ、日本ゼオンの各社とパイプラインが繋がっているため、こうしたパートナー会社との連携を強化していくということに尽きる。ただ、塩ビは非常に厳しい状況にあり、国内での競争力確保が課題だ。我々のお客様も色々な戦略を考え、設備の適正化等も想定はしているだろう。そういったことをコンビナート内で腹を割って議論できるかが重要だ。パートナー会社と適正な能力等の議論を進めながら強くしていくということが基本中の基本になる。
また、当社は徳山でコンビナート各社への燃料アンモニアの供給を検討している。石炭ボイラのCO2問題で一つのソリューションとして提案しているものだが、そういったこともコンビナートの強化に資するよう、力を入れていきたい。加えて、千葉・徳山の両拠点でSAFの事業化を検討している。2028年度からの製造開始を計画しており、稼働すれば副産物でバイオナフサが得られる。グリーン化において自社製品を装置にかけられるため、原料供給の面でもコンビナートの強化に繋げられればと考えている。
他方、西日本にはまだ複数のクラッカーがあり、3社(旭化成、三菱ケミカル、三井化学)で色々な協議を行っていることは承知している。徳山のコンビナート強化策は垂直的なものになるが、横の繋がりでもできることがあればやりたいと考えているので、検討していきたい。
-「CNXセンター化構想」における基礎化学品事業の役割は?
大きく2つあり、1つはケミカルリサイクルだ。千葉ですでに建設に入っており、2026年から稼働を開始する。廃プラの処理能力は2万トンで、得られる油は軽質原油と同等のもの。それをトッパーにかけ、そこから先は通常のものと変わらない。燃料油にもできるし、化学品にもできる。これで廃プラを原料としたグリーンな化学品を作っていくという構想で、プラスチックとして使用された後はまた回収、油化して循環させていく。
想定している廃プラはPE、PP、PSの3種が中心で、塩ビとPETは外している。今後、リサイクルできる廃プラの種類を増やす技術開発も同時並行で進めていくが、まずは3種で廃プラの油化を実現してきたい。ナフサにすれば徳山のクラッカーでも使えるし、マスバランスの手法も適用できる。
もう一つはバイオナフサの投入だ。現状はバイオナフサを輸入して徳山のクラッカーに投入し、バイオ化学品を販売する取り組みを1年半ほど前から行っている。今後も継続して取り組んでいくとともに、2028年度以降にSAFの製造装置が稼働した後は、自社でバイオナフサを製造できる。それを使って、バイオ化学品のチェーンをしっかり構築していきたい。原料のグリーン化と、使用後の製品を回収して循環させるという2軸で、グリーンケミカルのサプライチェーンをステークホルダーと一緒に構築していく。これが基礎化学品事業部におけるCNXセンター化戦略の最たるものだ。
-日本の石化はどうあるべきか
厳しい事業環境が続くのは間違いなく、とても日本国内でケンカしている場合ではない。1社で出来ることは限られており、力を持った会社同士で連携していく必要がある。それから、我々だけで石油化学産業が成り立っているわけではなく、色々な誘導品なり役割を持った会社がサプライチェーンで強固に残っていることが極めて重要だ。生産の最適化は確実に進めなくてはならないが、それによってサプライチェーンが寸断されることは絶対に避けたい。サイズダウンは致し方ないとしても、サプライチェーンはきっちりと維持することが日本の石油化学にとって大事になる。日本にとって必要不可欠な産業でもあるので、しっかりと存続させていくことが重要だ。厳しい環境ではあるが、手を取り合って乗り越えていかなければならないし、乗り越えられると思っている。
また、原油を扱う会社が化学事業もやることの価値を高めることも重要だ。元になる原料は原油だけでなく、バイオや合成燃料、eメタノールの検討も始めている。当社は化学会社に従来のナフサを販売するだけでなく、新しいグリーンな化学原料を供給していくことも大きな使命だと考えている。そういう意味でも、千葉で進めている廃プラケミカルリサイクルの意義は大きい。
石化をやめようという考えは毛頭ない。極端に言えば化学事業がないと精製事業も生きられないし、化学会社に原料を供給していくことが大きな役割だ。それがあるからこそ、パートナーシップを組んでもらえるのだと理解している。